髭男 渾身の一作
このアルバム。個人的に生涯でも忘れられないアルバムになりそうです。アルバム通しての流れも最高だし、一つ一つの曲に個性があって、各メンバーの魂が詰め込まれています。バンドとしての決意をも感じ、髭男がバンドとして新たな境地に立っていることを示している気がします。まさに渾身の一作だと私は感じました。間違いなくJPOPの歴史に刻まれる名盤になると思います。
本当は全曲書きたいけど、あまりにも長くなりそうなんで最初の2曲というより、「アポトーシス」メインで書きます。
Editorial
表題曲ですね。なんと、アカペラ。一発目にこれをぶち込んでくるあたり、やっぱり名盤でしょう。この特徴的な声は、デジタルクワイアというやつらしい。デジタルはデジタルで、クワイアは「聖歌隊」。なるほど、一つの声を、デジタル処理で音を変えて、コーラス風に何重にも広げるというわけですな。
またアカペラだから、より歌詞が入ってきますね。明らかに歌詞を聞かせに来ている。なるほどこうやって、この曲をド頭において、このアルバムでは歌詞を聴け!とリスナーに促しているのでは?そうだとしたら、藤原聡、策士な男です。
ちなみに、Editorialは社説、論説という意味らしい。
アポトーシス
アポトーシスって何
まず曲名を見てこれが頭によぎります。
「アポトーシスとは、あらかじめ予定されている細胞の死。細胞が構成している組織をより良い状態に保つため、細胞自体に組み込まれたプログラムである。」(Answersより抜粋)
なるほど。プログラムされた細胞の死か。なにやら不思議なテーマです。
よーく曲を聴いてみよう!
最初この曲を聴き終えたとき、気づいたらもう一回再生してしまっていました。ものすごい熱量とエネルギーを感じたからなんでしょうか。一回では受け止めきれなかったのかも。
年始めの関ジャムのいつもの企画で、音楽プロデューサーの蔦屋好位置さんがこの曲を年間ベスト1位に選出していました。その解説もすさまじく、家で一人でうなされながら見ていました。
イントロであった聴いたことのない音は、自分の声をコンピューターでいろいろといじくって作った新しい音だそうです。序盤はその音と、ベースと機械的なビートで構成さたアンサンブル。メロディは相変わらず一級品。
そして、「さよならは~♪」のところから一気に幻想的なシンセサウンドに変化し、その中で転調。そんでサビ?「今宵も鐘がなる方角は~♪」から、また一気に雰囲気を変え、ピアノと、あの、のど自慢のあれかな?鐘の音が響いています。また、この部分の駆け上がるようなメロディがこの後も多用されてとても印象的。
曲の後半は、前半に変化をつけたサウンド。バンドの演奏が表面に出てきて、サウンドに力強さを感じます。リードギターの音が何か、真新しい音で最初、シンセで弾いてると思っていましたが、インタビューやレコーディングの映像を見ると、普通にギターを弾いてるんですよね。どうやってあの音を出しているんでしょうか。おそらくコンピュータで音色を変えているはずです。
そして、最後は藤原さんの弾き語りで終わっていきます。最後ペダルと鍵盤が上がる音まで入っています。意味深。
新時代のバンド音楽芸術!
アポトーシスは曲自体も、藤原さんが1年かけて書き上げただけあって素晴らしいです。驚くべきはバンドとしてのアレンジ力。上に「新時代の」と書きましたが、これは、もうコンピュータのことです。今の時代このアルバムのI LOVE…やHELOOなどの楽曲も同様ですが、この曲では、声をサンプリングしてつくった新たな音など、バンドとしての演奏に、コンピュータを使った様々な音色、あえての機械的なビートが随所に組みこまれていて、バンドサウンドとして全く新たなものになっています。これはバンドメンバー全員のアレンジ力あってこそなんだろうな。この曲のドキュメンタリーを見るとそれがよくわかります。リンクは貼らないので探してみてください。
今や音楽にコンピュータは必須の時代。コンピュータで限りなく生演奏に近い音を作り出すことさえ可能です。
楽器を演奏するバンドはいらないかもしれない。コンピュータでバンドっぽい音を作っちゃえばバンドはいらないのかもしれません。
しかし、髭男はそういう方向ではなく、バンドとしての強さを持ちながら、コンピュータの音を、持ち前のアレンジ力で取り込んでいる。「プログラム」している。逆に、バンドにコンピュータの音が組み込まれるからこそ、バンドとしての新しい可能性を見出せる。この曲からはそういった、髭男のバンドとしての音楽への姿勢を体現している。これぞ新時代のバンド音楽芸術です。
最後に、もう一度「アポトーシス」の説明を読んでみてください。
「死」はよりよい「生」のために、プログラムされ、組み込まれているもの。誰しもが死を迎える。悲観することではない。
「死」があるからこそ、力強い「生」を歩める。そう、このバンドのように。
なんちって。
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